a bit bite of new york



サンライズからはじまる毎日のサプライズ。

ちょっとしたことを、
ちゃんとしたものに。

そんな小さな出逢いをニューヨークよりお届けします。


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ハノイで会いたかった人。
今朝起きると、
めずらしくグレーがかった空が見えて、
窓には雨の雫がぽつぽつと流れ落ち、
時間帯といい、色合いといい、
それは、ハノイの朝に似ていた。

夜の便で着いた翌日、6時頃に目が覚めて
カーテンを開けたときに見た曇り空と、
そこに小雨が降るあの朝に。

ニューヨークのアパートの窓から見える景色よりも、
遥かに緑が多いハノイのシーンには、
くすんだ色をしたコロニアル調の建物と、
ビニールのポンチョをかぶって
雨の中バイクを走らせる人たちが映っていた。

ハノイでどうしても会いたかった人、
それが、Mr.Tiep だった。

1泊だけ泊まろうと決めた、
創業1901年の伝説ホテル、
ソフィテル・レジェンド・メトロポール・ハノイの
新館1階にあるバー。

本当に会えるかなんてわからないまま、
彼がそこにいることだけを願って向かった
ベトナム滞在最後の夜。

あえてテーブル席には座らず、
真っ先に奥のカウンターに向かい、
誰も座っていないことにホッとして、
わたしたちはカウンターのど真ん中の席に腰を下ろした。

するとふたりの男性が、バーの内側からわたしたちに目を向けた。
ひとりの人の目が一瞬キリッとして、
気合いが入ったように見えたのが印象的だった。

「Mr.Tiep はいますか?」

目の前にいた男性に聞くと、
その人ではないほうの人が
びっくりした顔でわたしを見た。

会えた!と心の中で興奮しながら、彼に挨拶をした。

想像していたよりもずっと若く、元気がよく、
ハンサムなのに、笑うと両頬にくっきりと
見えるえくぼが可愛らしい。
"Mr.Tiep" というよりは、
“ティエップくん”のほうが似合う青年だった。

「どうして僕のことを知っているんですか?!」

「ネットであなたの記事を読んで、
どうしてもハノイであなたに会って、
あなたのカクテルを飲みたかったの。」

彼の大きくピュアな黒目が、驚きとともにさらに大きくなった。

ティエップくんは、ベトナムのニャチャンの
カクテルコンテストで優勝し、
さらに去年7月にブラジルで開催された
世界バーテンダーコンテストで
ベスト・バーテンダーにも選ばれた人。

そのときブラジルでつくって話題になったカクテルというのが、
"The Joan Beaz"という名のフォー・カクテルだった。

スターアニス、
カルダモン、
シナモン・スティック、
チリペッパー、
レモンジュース、
砂糖、
香菜に、
ジンとアイス。

フォーヌードルのスープに使われる材料と
同じものでつくるこのカクテルは、
さっぱりとしたシトラスの風味が口の中に広がったあと、
じりじりと少しずつフォーの味へと変化する。
ほんのり甘く、苦く、いままで飲んだことのない
“美味しいカクテル”だった。

Joan Beazとは、アメリカ人の女性フォークシンガーのことで、
ベトナム戦争真っただ中の1972年、
反戦運動のためにメトロポールに滞在していた彼女は、
避難していたホテル内の防空壕で
ベトナムのため、平和のために歌ったという。

ティエップくんは、
彼女が大好きだった香菜をふんだんに使って、
世界でたったひとつの、
ベトナムのハノイのメトロポールホテルの
新館のバーでしか飲めない、
フォー・カクテルを生み出した。

わたしはその幻のカクテルを、どうしても飲みたかったのだ。

カクテルを少しずつ飲みながら、
ティエップくんのお話を聞いてみた。

ハノイの隣にあるフンイエン省の小さな村で生まれ育ち、
16歳のときにハノイにやってきた。
知り合いも、頼りになる人もいないハノイで、
住む場所のない彼が毎日たったひとりで
暮らしていたのは、橋の下。

「晴れの日も雨の日も、
毎日橋の下で暮らして、
ありとあらゆる仕事をして、
バーテンダーになったんだ。」

上手な英語で、笑顔を浮かべながら
ティエップくんが話す。

ちょうどわたしたちが1杯目を飲み終わる頃、
まだメニューにはない新しいカクテルがあるから飲んでほしいと、
彼は準備にとりかかった。

こんどは、
レモングラス、
ヌクマム(ナンプラー)
生姜、
ライムジュース、
砂糖、
ジン、
テキーラを使ったカクテルで、
その名も "Under the Bridge"。

「橋の下で暮らしていたとき、
そこにしょっちゅうカタツムリを売りにくる
おばちゃんがいてね。
そのカタツムリは、レモングラスと、
生姜とヌクマムで味つけされているから、
僕にとってこのアロマは、あの頃の匂いなんだ。」

これまた明るく話すティエップくんの
笑顔とえくぼを見ていたら、
彼の肯定的な生き方とその強さに感動して、
わたしは思わず泣きそうになってしまった。

人は辛いときの経験やこのような窮状に
おかれたときの話をするとき、
ちょっとばかし照れるものではないのか?

きっと橋の下の匂いとともに、
あの頃の想い出、経験、気持ちも
いっしょに込められたカクテルなのだろう。
ややしょっぱいヌクマムの味が、わたし好みだった。

ティエップくんのフルネームは、
Pham Tien Tiep だそうで、
Pham が名字、
Tien がミドルネーム、
Tiep が名前。

彼について書かれた記事には、
"Mr.Tiep" とあったから、
ついそれが名字だと思っていた。

「ミドルネームの Tien とは、“歩く”、
名前の Tiep は、“続ける”という意味だから、
I keep walking.  僕は歩き続ける。」

なんて、かっこいいのだろう。

ここまでくるのに彼はどれだけのことをして、
どんな思いで橋の下で寝て、起きて、
歩き続けてきたのだろう。

そのような日々を乗り越えて、
今はフランス植民地時代に建てられた
格式高い一流ホテルのバーで、
メインのバーテンダーとして働いている。

わたしたちが席に着いた瞬間、
目にキリッと力が入った彼の、
プロとしての意識が忘れられない。

彼に出逢えて、本当によかった。



たびたび、旅。 : comments(3)
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comment
ひろかちゃん。久しぶり〜
感動しちゃったよ。
ちょうど7月に初ハノイに行くの!
フォーのカクテル呑みたくなったよ!
行ってみようと思います。
彼にも会って見たいです。
| yuka | 2013/05/21 12:16 PM |
いやーん、ゆかちゃんコメントありがとう!
実はちょうどほんとにメイルしようと思っていたのよ!
すごいテレパシーだわ&#9825;

ハノイ!行くのね!!
ぜひこのバーに行って、
ティエップくんに会って、
彼のフォーカクテルを飲んでほしい。
ホテルもすごく素敵だよ。
ゆかちゃんたちの好みだと思う。
ほかにも美味しいレストランとかオススメある〜〜

ではでは、メイルします!
| pirocat | 2013/05/24 12:10 AM |
3泊予定で女子二人旅です。
オススメ教えて!!!
まってまーす。
| yuka | 2013/05/25 8:02 PM |
comment









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